マルチタレントな芸術家C.A.スミスが若干14歳の時に書いた作品で、長らくブラウン大学のジョージ・ヘイ図書館に所蔵されていた。彼の書いたものの中では最も長い作品でもあるが、一般に刊行されるのは何とこれが始めて。テキストには若干の欠落や混乱が見られるが、読み進めるのに全く支障はない。
内容は明らかに『千一夜物語』を意識して作られたものなのだが、舞台は16世紀半ばのバグダッドなので、かなり遠方の外国の名前が出て来たり、銃撃戦があったりする。「拝火団」と呼ばれる邪教集団についての描写の他には特にこれと云って超自然的要素を描いた箇所はなく、「黒の金剛石」を巡って繰り広げられる争奪戦がメインの冒険活劇である。文体には後年の作品の様な手の込んだ美しさは見られず、また文法的にやや稚拙なところも見受けられるが、全体的にシンプルで展開が早く、とても14歳の少年が書いたものとは思えない出来。スミスの作品は時にやや晦渋と取られることもあるが、本作品はそんなことはなく、最後までペースを崩さず楽しく一気に読むことが出来る。